経絡の本質と気の流れ


真皮の構造と機能


1) 真皮の構造と成分

(1)構造
 乳頭層(stratum papillare)、乳頭下層(stratum subpapillare)、網状層(stratum reticulare)の3層よりなる。乳頭層は真皮乳頭を形成する部分で、礎質に富み、繊維成分は繊細で粗であり、表皮、基底膜に接して細網繊維の密なnetworkがあり、そこに毛細管係蹄を入れる。
 乳頭下層は細動脈、細静脈、神経の作るplexusがある。
 網状層は真皮の大部分を形成し、繊維成分は太くて密で、菱形のnetzを作る。
 以上の3層よりなる真皮を構成する成分は主として繊維成分(fibrous elements)であり、その間隙を埋めて礎質(ground substance)と細胞成分がある。従って真皮の大部分は繊維成分、礎質等の結合組織よりなるものである。
 次に、真皮結合組織を構成する三つの成分について略述する。

(2)真皮結合織を構成する三つの成分
 ①細胞成分
 繊維芽細胞―真皮における主要細胞であり、膠原繊維(コラーゲン)と礎質のムコ多糖を生成する。
 組織球―毛細管周囲に少数存在し、喰食能をもち、ある種の微生物、代謝産物、メラニン顆粒、異物、崩壊した組織、細胞等を喰食する。
 肥満細胞(mast cells)―血管周囲に存在し、ヒスタミンとヘパリンを含有する。アレルギー反応I型で主役を演じ、細胞表面にIgE型の抗体を有す。
 ②繊維状蛋白質
 主成分は白色のコラーゲン繊維で、これは真皮結合織の90%以上を占める。次いでエラスチン(弾力繊維)、レチクリン(細網繊維)がある。

③無定形礎質(ground substance)
 結合織に含まれるすべての非細胞性、非繊維性成分を言い、これは結合織の繊維間と細胞間とを充たす無定形の成分で、コロイド性の有機物質、血漿蛋白、電解質、水等から成る。
 近年の発生学、生理学の証明によると、細胞間質は非常に機能的で、礎質は二つの相に分けられることが示されている。一つは水が少なくコロイドの多い相、これは結合織の構成成分と連結している。他の相は水の多い、コロイドの少ない相、これは水溶他の可動的な成分を含む。以上の礎質の2相性仮説によると、同質は次のように図化される(図1)。
真皮を流れるBP電流は、主としてこの礎質の水の多い、コロイドの少ない相の中を流れるものと思われる。
 礎質のコロイド性の有機物質は、主としてムコ多糖―蛋白複合体からなり、大別して酸性ムコ多糖―蛋白と中性ムコ多糖―蛋白とがある。ヒトの真皮では酸性ムコ多糖としてはヒアルロン酸が多く、次いでコンドロイチンB(デルマタン硫酸)が多い。そしてヒアルロン酸はコラーゲン網状組織の繊維内空間の内にマリ状の塊としてあり、デルマタン硫酸はそのコラーゲン繊維に固く付着している(図2を参照せよ)。中性ムコ多糖については、血漿由来のものとの分離が十分でないため、十分な分析結果が得られていない。
以上の真皮結合織を構成する三つの成分のうち、主成分たる繊維状蛋白質、礎質は絶えず崩壊と代謝を行なっている。
 ところで上の酸性ムコ多糖、特にヒアルロン酸は、コラーゲン繊維の作るnetworkと関連して、礎質の中の水の量、電解質の量、運動に多大な影響を与える。従ってコラーゲン繊維の作るnet-workとヒアルロン酸は、BPの値に多大の影響を与えるように思われるので、それらの真皮結合織における機能、作用について次節で詳しく述べたい(3)。

2)BPの値を決定すると思われる真皮結合組織の作用と機能

(1)真皮結合織は電解質の貯水池
 皮膚結合織はそれに特有の蛋白―多糖類高分子電解質と連関して、電解質の貯水池として働く。
例えばNa+イオン、CI-イオンの大部分はこの結合織相に属している(J.F.Manery “ConnectiveTissue Electrolytes”(5))。

(2)ヒアルロン酸の網状組織は高い負電荷をもち、イオン交換器のように働く
 生理的pHではglucopyranuronosyl残留物は一つの自由なカルボキシル基を運ぶので、結合織内の自然なヒアルロン酸の網状組織は高い負電荷をもち、この電荷は網状組織をイオン交換器のように働かせ、礎質を通じての多くの代謝物質の拡散をコントロールする。また組織内の無機イオンの分布を変えることができる(4)(5)。

(3)結合織の高分子電解質変化とNa+イオン変化の関係
 また逆に、生体内での結合織の高分子電解質の変化はNa+イオンの変化に伴なうことも知られている。

(4)ムコ多糖蛋白と無機イオンの相互関係
上記から、皮膚結合織蛋白、ムコ多糖類等と無機イオンNa、Cl、K等々の間には、互いに作用、構造の上で密接な相互関係のあることがわかる。これらの相互間の密接な関係作用を更に列挙してみると、ムコ多糖類はcarboxyl基や硫酸基をもち、強いポリアニオン(多重陰イオン)物質であるため、各種のカチオン(陽イオン―Na,K,Ca,Mg―)と反応し、特に細胞外でNaClとイオン結合し、電解質,水の代謝と密接に関係している(4)(5)結合縁内の余分のNa+イオンはムコ多糖陰イオンに対する対抗イオンとして保持されている(5)。
 溶液状のヒアルロン酸は、溶液中のNa+イオンの濃度によりその物理的性質を変える。塩濃度が低いと凝集し、塩分を加えてゆくと分離する。このことからヒアルロン酸は、結合織内のNa蓄積上の機構に一役あずかっていることが推測される(4)。

(5)ヒアルロン酸、Na+、水分代謝の密接な関係―BP値とヒアルロン酸の関係
 さて以上のところから、負電荷をもつムコ多糖類、ヒアルロン酸がNaイオン蓄積に重要な一役を担っていることがわかるが、このNa+イオンは体内の水分布を支配する重要な役割りをもち、その意味でNa+イオンは体液のバランスのために非常に大切である。
 ヒアルロン酸はこのNa+イオンの蓄積に重要な役割りを果たす。これはヒアルロン酸が体液内水分のコントロールに一役を担っていることを意味する。
 ところでBPの電流の流れるところは、結合繊内礎質の水の多い相であろうと既述のところで予測したわけだが、上述のところから、ヒアルロン酸の状態が礎質の水の量をNa+イオンとの関連でコントロールしうることが理解される。従ってBPの値は、礎質内のwater-rich相を変化せしめるヒアルロン酸の状態によって、かなり影響を受けることが推測される。

(6)BP値に変化を与えるwater-rich,water-poor相の比率はヒアルロン酸の性状で変わる
次にBPの値に変化を与えるものとして、礎質内water-rich相とwater-poor相の比率が考えられる。というのはJoseph et alの電気メーターによる研究では,両相の相対的比率が、自動的に礎質におけるある種の諸イオンの相対的比率を決めることが明らかにされているからである(5)。
そしてwater-rich相とwater-poor相の比率を変化せしめるものの一つとして、既述の理由でヒアルロン酸が考えられる。
 また別の視点からも、ヒアルロン酸がwater-rich相、water-poor相の比率に影響を与えることが考えられる。即ちヒアルロン酸は礎質の生理的構成を用意し、細胞外において代謝物質の細胞への出入を規制する主たる因子であると思われるから、ヒアルロン酸の状態、例えば平均的分子量や濃度が変わると、ヒアルロン酸のもつ上の作用機能が変化し、その結果細胞外液、礎質の中の代謝物質諸イオンの分布が変わり、これがwater-rich相、water-poor相の比率に影響を与えることが考えられる。
 いずれにしても、ヒアルロン酸等の状態変化でwater-rich,water-poorの両相の比率が変わり、諸イオンの相対的比率が変われば、真皮の礎質結合織の内を流れるBPの値は変わると思われる。
 皮膚結合織礎質内の水分は夏多く、冬少ないと思われるが、夏のAMIデータでは、BPが冬のそれより高い。これはBPの値が礎質内の水分及び諸イオン、特にNa+イオンの増加、それに伴なう諸イオンの変化に基づくものと思われる(表G)。