講演集
人は良心を忘れて、21世紀を生き延びることはできない。
悪を斥け、善を行う。社会のために尽くす。
そんな当たり前のことを、人々は忘れていないだろうか。
良心を置き去りにした物質文明を根本から問い直し、
個人と社会の在り方を明らかにする。
新しい時代の幕開けに各界著名人が語る良心の復権。心を病んだ現代人に必読の一冊。
<序にかえて>本山博
今年の統一テーマは「良心について」でございますが、このテーマを選んだ理由は、一つには、今の世の中を見ていますと、人のために何かを一生懸命にする、人を助けるというような善といいますか、良心に発した行為をすることがわりあいに少なくて、自己主張、あるいは自分の権利を主張する、そういう、ある意味では非常にギスギスした世の中で、また、非常に争いの多い、嘘の多い世の中になったような気がします。
しかし人間には本来、そういう、物を求めて豊かな生活を送りたいという欲望、あるいは願いの実現を追求していく生き方の他に、先祖の霊とかあるいは神様に仕え、その神様や先祖の教えに従って、社会が平和で円満な社会になるように、安全な社会になるように願いながら、「自分」というものを捨てて皆と共生ができるように努め、先祖の霊あるいは神様に近づいて大きな精神的な、あるいは魂の領域に入っていくことを願うという、二つの生き方が大昔からあった。
人間が生まれてから四百万年~五百万年くらいになるわけですが、いろいろな遺跡の考古学的研究、分析、あるいはまた、歴史的な事実の分析等から、人間には物の豊かさを求める面と、精神的に成長して、社会が成り立っていくように努力する面、あるいはまた、個人の独立性、自主性を求める面と社会のために尽くす社会性の面、この両面の両立を求めつつ人間は現在までに生き延び、社会をつくってきたように思います。
ところが今の科学主義に支えられて物質的に繁栄をした資本主義の下では、どうも、人間が物になってしまって、心、あるいは良心を忘れたような面の方が強くなってしまった世相が見られるように思います。
そこで、良心とはいったい何か、これから地球社会を実現していく上で、各民族のもっている倫理、道徳、あるいは生き方などを互いに認めながら、なおかつ、それら個々の違いを超えた良心、あるいは地球人としての良心、そういうものがこれから確立されないと、人類は一つの混乱に陥るのではないかと思いまして、
ぜひ今、ここの会場にみえている方がたばかりではなくて、日本、世界の人びとに、良心とはいったい何か、良心というものを人間はもっているのかどうか、もっているとすれば、それはいったいどこからくるのかなどにつき、考えて戴きたいと願って、いろいろな専門の先生方のお話しを伺いながら皆さんと一緒に考え、良心を実現できるような、実践できるように努力できる意義のある会にしたいと思っています。
目次
心あたたかな病院運動
遠藤 順子(作家遠藤周作氏夫人)
「心あたたかな病院運動」のはじまり/緒についたばかり/夫に「宿題」を残されて
/続いている「宿題」/残された家族の訴えから/投書にみられる三つの問題点/往きの人生、還りの人生/死に支度は五十歳から
/あたたかな心の配慮を/「念書」にみる非人間性/「医はアート」/「自宅で死にたい!」
/在宅死運動の実例/三者の協力のもとに/医者のクオリティ・オブ・ライフでなく/生命の伝達/オールドシニアの辛さ
/キリストのやさしい眼差しを
企業倫理と経営者の社会的責任
八城政基(元 シティ・バンクジャパン会長)
はじめに/七〇年代における米国企業に対する批判/社外取締役制度の変貌と定着/社外取締役の役割―企業倫理の遵守―
/企業成員の倫理規定遵守/株主総会の日米間における違い/チエック・システムの確立が必要/コーポレート・ガバナンスについて/ステークホールダーと株主
/日本企業への信任/企業による社会への還元/全てに外部の目(チエック)を
個人と社会を甦らせる良心
本山 博(IARP会長・CIHS学長)
はじめに/良心の復活を願って/古来からの人間の生き方の二種/物的豊かさ追求への偏向/良心とは何か/良心のありかは何処か/良心の湧き出る根源/場所的な心――良心――が地球社会を創る/二つの生き方の調和の上に/良心を目覚ます方法――(1)瞑想/良心を目覚ます方法――(2)超作/おわりに-「場所的個」への成長進化を望む
公開討論 21世紀における良心の諸問題 ― 良心の復権 ―
遠藤 順子(遠藤周作氏夫人) 村上 和雄(筑波大学応用生物化学系教授) 本山 博(IARP会長・CIHS学長) 八城 政基(シティバンク・ジャパン会長)宗教心理出版